SAGITTAIRE A
SAGITTAIRE A・・・ ( 射手座A ) 天の川銀河の中心にある強力な電波を放出する天体であり太陽の400万倍の質量の超大質量ブラックホールと言われています。 実在するブラックホールをブランド名とするSAGITTAIRE A ( サジタールA ) は18AWにデビューしました。 ルーツをフランスとし、拠点を中国に置くクリエーティブ集団によるプロジェクトネームです。チームはファッションだけではなく法学や経営学を専門として学んだ経歴のある者達によって構成されておりデザイナー名は非公表。この事は人に焦点をあてるのではなく ( デザイナー名やブランド名のみで単純に判断や評価される事を嫌う ) 、クリエーションのプロセスの背景にある芸術性がリアルであるという考えに基づいています。 SAGITTAIRE AのスポークスマンであるRafael Jimenezは彼らについて 「独立した精神を持ち、しかも長期的にプロジェクト ( 18AWデビュー以前の10年間程ファッションビジネスに関してリサーチをし続けている経緯もあります ) を遂行している。SAGITTAIRE Aは人生をかけて行うライフタイムプロジェクトであり、本当に正しい事、そして本当の意味でのオリジナリティのある服を生み出したいと思っている」。と語っています。 【 多くのアイテムに見られるSAMPHRENIAという単語に関して 】 滅多に人に会わず夜に行動する生活のほとんどを読書や知的研究・創作に費やすデザイナーは、コレクションに使用されるドローイングや写真製作も含め自分の手だけで一から全てを作り上げるAW18デビューコレクションのサンプル ( Sample ) 製作に際し、コレクションの表現において何が正しいかを考えるあまり精神が極めて不安定な状態に陥りました。この時見ていた映画「カッコーの巣の上で」が、この時のデザイナーの統合失調症 ( 英 : SCHIZOPHRENIA ) 的な精神状態そのものを表現するのに最適なモチーフとして考えられました。尚、18AWコレクションタイトルのSAMPHRENIAは、SAMPLEとSCHIZOPHRENIAを組み合わせた造語として命名され、同ブランド独自の表現を象徴するワードとしてSS19コレクション、そしてAW19コレクションにも引き継がれました。 【 19SS PREDICAMENT OF PUTNAMコレクションに関して 】 19SSコレクションのプレゼンテーションはわずか二つの上映ホールしかないパリ市内のとある映画館で行われました。狭い受付を抜けてすぐの階段を降りた地下の上映ホールでは約20分という長尺の映像が上映され、上映終了後、招待客が席を立ってグラウンドフロアにある地下のものより少し大きい上映ホールへ移動。全員が移動し終わる頃すぐにモデルを使ったプレゼンテーションが行われました。つまりは映像上映とモデルが登場する二部構成です。 この事は本来、立体造形物であるクリエーション ( 洋服 ) 自体が評価されるべき対象であるにも関わらず、現状は画面上に平面的に表示された画像のみが評価の対象となり、もっと言えばこのような状況が蔓延する事で、ディテールの作り込みが無視されビジュアルの強烈さのみが際立って強調されたデザインが世間一般に受けるという時代性への批判的な姿勢の表れであるのかもしれません。さらに申し上げると、ほとんどが実際に実物を見ていないにも関わらず、その段階での判断や評価で留まっているという事への皮肉と推測されます。何故ならばSAGITTAIRE Aチームは、クリエーションのプロセス全てに手仕事的芸術性が宿るべきだと信じ製作している故です。 【 19SS PREDICAMENT OF PUTNAMコレクションのインスピレーション源について 】 19SSシーズンは、映画「The Truman Show」、そしてヒラリー・パトナム ( Hilary Putnam ) が1981年に発表した「理性・真理・歴史 : 内在的実在論の展開」に登場する水槽の脳という思想実験をインスパイア源としています。 ■The Truman Showに関しまして 1998年公開のアメリカ映画。市民として平凡に暮らすトゥルーマン。実はトゥルーマンの生活全てが、TV番組 「トゥルーマン・ショー」として24時間ノンストップで生中継されていた、、、という異色作。妻などの家族や友人を含めた関わりのある人物、そしてこれまでの人生で起きた事象全てがフィクションであり、その事を知らないのはトゥルーマンのみという設定。SAGITTAIRE A 19SSムービーの終盤に登場する、老人が階段を登り満足気な笑顔で深々とお辞儀をした後に、扉を開け別の世界に向かおうとするシーンはトゥルーマン・ショーからの引用です。 ■ヒラリー・パトナム ( Hilary Putnam ) : 水槽の脳に関しまして アメリカ人哲学者であるヒラリー・パトナムが1981年に発表した「理性・真理・歴史 : 内在的実在論の展開」に登場する思想実験が水槽の脳です。19SSコレクションムービーの冒頭に登場する赤ちゃん人形を入れた容器に貼ったラベルやタイトルにもあるPutnamは、同氏 ( ヒラリー・パトナム ) を指しています。そしてSAGITTAIRE Aの19SSコレクションの多くの商品に施されている文字はパットナムの手記です。 水槽の脳は、自分が体験しているこの世界は実は水槽に浮かんだ脳が見ているバーチャルリアリティなのではないか、という思考実験です。ある科学者が人から脳を取り出し脳が死なないような成分の培養液で満たした水槽に入れる。脳の神経細胞を電極を通して脳波を操作できる高性能なコンピュータに繋ぐ。意識は脳の活動によって生じる為、水槽の脳はコンピュータの操作で通常の人と同じような意識が生じる。我々が現実に存在すると思っている世界は実はこのような水槽の中の脳が見ている仮想現実かもしれない。というものです。 この思想実験によってパトナムは、知識や正当化は心に外在する要因に依存しており純粋に内的には決定されない。としており、私達の外界についての正当化されている思念が全て間違っている可能性を示唆しています。 上記の二つのインスパイア源は、現在のメディア社会において正しいクリエーションをしているブランドが正当に評価されず情報操作によってフェイクなブランドが評価されてしまっている事実がある現状のファッション業界に対しての痛烈な批判です。そして権力等による情報操作と監視・管理社会が実際に存在しているにも関わらず、その事を知らずに日々疑問を持たず生活してしまい情報に踊らされているかもしれない。さらに言えば自由意志の上で自身で選択していると思っていた行動までもが操作されている可能性があるかもしれない、という事に意識が向かない大衆へ警告をする為のロジカルな引用だと推測されます。