RAF SIMONS ISOLATED HEROES : Interview and Text by TIFFANY GODOY
30.03.2016

2016年春、RAF SIMONSからISOLATED HEROES CAPSULE COLLECTIONがリリース。

本カプセルコレクションの元となった、ポートレート集、ISOLATED HEROESは何を目的に制作されたのか?
また、込められたメッセージは?

これらの疑問に対する答えや、本コレクションをリリースした意図を深く理解して頂く為のきっかけの一つとして、STUDIO VOICE 2005年6月号に寄稿された、ファッションエディター兼コンサルタントであるティファニー・ゴドイ氏によるラフ・シモンズのインタビュー記事をご紹介致します。本NEWSに関しては、ティファニー・ゴドイ氏本人からの承諾を得て掲載致しております。

それでは、どうぞご覧下さい。

RAF SIMONS INTERVIEW
インタビュー・文=ティファニー・ゴドイ
Text by TIFFANY GODOY

ファッションの洞察家のパワーと独創性は、カルチャーのあらゆる様相に共鳴することができる。ベルギーのデザイナー、ラフ・シモンズは間違いなくメンズウェアの世界に変化をもたらした。象徴的なアウトサイダームーヴメントの追求は、ファッション界が理想化した男性のアイデンティティに反抗し、あらゆるジャンルの人からコラボレーションを持ちかけられるようになった。マリリン・マンソン、ベック、DJヘル、そしてキュレーターのフランチェスコ・ボナミ。シモンズにとって服は、アティチュード、ムード、自己主張など彼の宇宙の核心を伝える媒体のひとつにすぎない。

「Isolated Heroes」 と名付けられたこのプロジェクトは、ラフ・シモンズとイギリスの革新的なファッションフォトグラファー、デヴィッド・シムズとの非常に個人的なコラボレーションの成果である。この少年達はもともとベルギーのストリートでシモンズにスカウトされたのだが、ほとんどの少年たちが毎シーズンのショウに登場し続けるという彼らとの継続的な関係が、シモンズのイメージにとって不可欠なものになった。5年以上も前に作られたこのカルトなシリーズは、シムズとシモンズの感性の原動力となる、正直で無垢で純粋な概念を探求している。システムから外れた場所で革新的な仕事をし続けた10年間はシモンズの新時代の感性を形作り、自分の過去の繰り返しを拒否するデザイナーであることを実証した。これらの写真は、このデザイナーがどこを通過して、どこに向かっているのかを象徴的に表している。

—これらの写真が撮られてから既に5年以上経っていますが、今でもあなたの世界の精神をとらえていますね。これはもともとルックブックやカタログの一部だったんですか?それとも人間そのものやそのフィーリング、時代をとらえようとしたものだったんでしょうか?

「ただ自分たちと彼らのために撮ったんだ。デヴィッドと僕は作品を撮る2年前に知り合ったんだけど、ストリートの人達を撮りたいってことで意見が一致したんだ。1000部だけ刷って、気に入った人にあげていた。再販はしなかった。そのうち人々がこの本に興味を持つようになるとかなりのレアアイテムみたいになって、今度はいくつかのギャラリーからこの作品を展示しないかと言われた。僕たちもこれをひとつのプロジェクトとして見せたいと思っている。僕らは自分たちをアーティストとか、ギャラリーに代表されるアーティストとしては考えていないし、あの写真は単にポートレートとしてとらえている。出発点は服ではなくて、どちらかというと心理学的な要素だったんだ。鏡と言ってもいいかもしれない。2つの世界の間に位置するもので、アートでもない、僕たちが知っているファッションではない。ルックブックでもカタログでもないから。ファッションシステムには収まりきらないんだよ。デヴィッドの写真にすごく刺激を受けて始めたんだ。彼は今までも、これからもずっと僕にとって一番のフォトグラファーだね」

—これらの写真には時代を超越したクオリティがあって、あなたの世界やあなたの周りにいる人間をよく表現しています。今、これらの写真に対してどのような印象を持っていますか?

「僕にとっては、今でも一緒に仕事をしている人が写っているから、タイムレスだね。それに僕はいつでもストリートやキャスティングを通じて会った人と仕事をしようって意識があるんだ。何人かとは友達になってコラボレーションをするようになった。8年以上もショウに出てもらって、今では子供がいるモデルもいる。一緒に成長して来たんだよ」

—「History Of My World」と名付けられた2シーズン前のコレクションから、あなたの美学に変化が起こってきていると思います。ブランドの10周年というタイミングで、回顧的な切り口を試みているんでしょうか?

「僕たちは今、すごく将来を意識しているんだ。それが関心の的だね。一緒に過去を取り上げて、21世紀のモダンなものに仕立て上げるって感じかな。新しいコレクションでは、過去に重要な意味を持っていたゴスやダークなものを取り上げたんだけど、できるだけ本当に黒々としたゴシックにはならないようにした。今はあまりに直接的な引用には興味がないんだ。以前は、そういうのがすごく誠実なやり方だったんだけどね。例えて言えば、若い子が「僕はマリリン・マンソンが大好きだから黒いメイクをしてマリリン・マンソンのTシャツを着るんだ」って言っているようなね・・・・・・」

—あなたは音楽、特に80年代の音楽を重視していますよね。また、音楽とアイデンティティとの係わり合いがあなたの世界では重要な要素だと思います。今でも音楽は21世紀的な感覚において、大切なものだと思いますか?

「いい質問だね。最近たまに、自分は音楽にがんじがらめにされているように感じることがあるんだ。新しい音楽を見つけるのは難しい。今でも自分が育った時代に虜になった音楽にはまっているよ。オーディエンスに聞かせる音楽、ステージで使える音楽を自分たちで作ったほうがいいんじゃないか、と過去に何回か思ったことがある。マムコム・マクラレンがセックス・ピストルズとかバウ・ワウ・ワウを作ったようにね。でも何だか不自然な気がして、結局やらなかったけど。今の質問が面白いのは、近頃また音楽を作ろうと思い始めたからなんだ。次の夏か、秋冬から始めるかもしれない。でも難しいんだよね、僕は音楽の素質がまったくないから・・・・・・(笑)」

—あなたのコレクションはとてもアート指向が強いですよね。自分でサウンドトラックを選んで、キャスティングをして・・・・・・映画を撮るようですね。

「だって映画にもすごく興味があるんだよ(笑)。映画が撮れたらいいだろうな。デヴィッドと初めて会ったときに社会派ドキュメンタリーを作りたいねって話したんだけど、時間がなかった。現実から逃避して他のことに集中できる唯一の世界が、アートなんだ。自分にとってはすごく離れた世界だから。アートを見て、その中に身を置くのは、別物なんだよ。展覧会を作るときみたいにね」

—でも音楽はファッションにすごく近いですよね?

「そうだね、音楽の多くはファッションに結びつけられて提供される。両者がかけ離れている時より、近すぎる方がもっと難しいんだよ。マリリン・マンソンのビデオクリップとかベックのツアーとかいろんな企画を持ちかけられるんだけど、いつも断っているんだ。彼らは好きだけど、あまりに20世紀末というか、システマチックすぎる。バンドのスタイリングとか、デザイナーがロックスターや映画スター、俳優、オスカー関係の人達に服を送るってシステム。こういうのは僕の世界じゃない。だからクラフトワークが執着といえるほど好きなんだよね。彼らのスタイリングやビデオクリップ作成には、システムがなかった。彼らが全部作り上げていたんだ。そういうやり方にすごく感銘を受けるし、尊敬している」

—あなたは既に独自の雰囲気やビジョンもありますし、人を集めてバンドをつくるということも今の活動の自然な延長のように思いますが。

「思うに、単に時間の問題なんだよね。もし100%の力を出して新しいことをしたいなら、100%の時間を割かないといけない。例えばDJヘルがいつも僕に「ドイツに来て、一緒にCDを作ろう」と言うんだけど、どうすればいいんだ?ドイツに2週間くらい行ってCDを作ることはできるけど、それが何になる?こういうことの繰り返しなんだ。ファッション業界やファッションデザイナーはカルチャー産業になったけど、僕にとって魅力的な企画が出てきたことはないね」

—このプロジェクトや、今あなたがキュレートしている「The Fourth Sex」の後は、他に個人的なプロジェクトはあるんでしょうか?クリエイティブ面で自分だけで手がけたのはこれだけですか?

「これだけだよ(笑)」

—あなたは自分のショウやコレクションを通じて自分のヴィジョンを伝えることに専念しているからですか?

「何年か前にファッションはひどいラヴ・アンド・ヘイトな関係になって、本当に辞めたいと思った時期があった。本当に辞めたかったんだ(笑)。でも今はすっかり変わった。前はファッション業界と闘っていた。自分が成長して業界と均衡を保てるようになって、デザイナーとしての自分に提案された要求や、それをどう達成すればいいかってことが腑に落ちるようになるためには、この10年間が必要だったんだろう。これからはそういうことに焦点をあてようとしている。そういう考えに同意できるようにさえなれば、対処できるようになるんだと思う。長いこと僕はこういう考え方に納得がいかなかったんだけど、今やこういう態度ってファッション業界ではかなり孤立してきている。人々は製品そのものじゃなくて、イメージで物を買っている。今の時代は製品に焦点を当てるんじゃなくて、服に焦点をあてる時代だと思う」

—つまり今までとはアプローチが変わったんですね。最終的には人々が望むような形であなたのメッセージやアイディアを広めたいと思っていますか?

「それはいいね。可能性も大きいと思う。おかしなことに、若い世代がすごく面白い主張を持っているようには思えないんだよね。若い才能を恐れているデザイナーは沢山いるけど、僕はすごく惹かれる。魅力的だよ。ゴルチエみたいに、どの点から見ても80年代における最重要なデザイナーも、色々と新しく面白い表現が沢山出て来たと思っているはずなんだ。でも現時点では、特に何も起こっていない。僕らを吹き飛ばして、自分たちが古い世代なんだってまざまざと見せつけてくれるような誰かがこの業界から出てきたら、すごく面白いだろうなと思うよ」

(初出 スタジオ・ボイス2005年6月号)

ABOUT デヴィッド・シムズ
1966年生まれ。英国・ヨークシャー出身。
ロバート・アードマン、ノーマン・ワトソンのアシスタントを務め、90年代以降、独自のスタイルを確立する。そのスタイルは、従来のファッションフォトグラフィーに必要とされていた華やかさではなく、本物 ( リアル感 ) を重要視した写真である( 事実、被写体はストリートハントするか、知人といった素人達を起用したという )。時代の進化を受け入れながらも常に無骨で攻撃性を秘め、イデオロギーに反する価値観を提示し、それまでの写真界の流れを変えたとされている。凝視する目線、カメラを見ないモデル、ミニマルな背景、型破りなポーズ、どれにも違和感があるが美しい。つまり、元来のシステマチック化された世界から外れた、シムズでしかあり得ない、真のオリジナルを追求するフォトグラファーである。

1996年 イエール国際モード&写真フェスティバルで最優秀賞を受賞。
2000-2001年 ハーパーズ バザーと独占契約を結ぶ。その後もRAF SIMONS、HELMUT LANG、PRADA、ALEXANDER McQUEEN、Yohji Yamamotoなど錚々たるブランドのビジュアルを手掛ける。