
Imaged by ©︎UTSUMI/ GQ JAPAN 2021年11月号 / Condé Nast Japan
【京都】未来は過去にあるー デザイナー・現代美術家 髙橋大雅
■デザイナープロフィール
髙橋大雅 ( タカハシ・タイガ )
T.Tデザイナー、現代美術作家
1995年 : 兵庫県神戸市生まれ
2010年 : 15歳の若さで単身渡英
2013年 : ロンドン国際芸術学校を卒業
2013年 : セントラル・セント・マーチンズBAウィメンズウエア学科に進学。在学中にアントワープやロンドンのブランドで経験を積み、2017年に同校卒業
2017年 : 自身の名を冠したブランド " タイガ タカハシ " をニューヨークで発足。当初はレディースでスタートし、パリファッションウィークにて4シーズンにわたりコレクションを発表
2021年 : 秋冬シーズンにメンズを始動。同年、日本に本格上陸
2021年 : 12月4日京都祇園に総合芸術空間 " T.T " をオープン
2022年 : 4月9日致死性不整脈で急逝
2023年 : 23AWよりブランド名を " T.T " へと変更
特記1) : 100年程前の時代はファッションブランドという概念がなく、テーラーが個人のためにオーダーメイドで服を製作していました。髙橋は、服の持ち主のイニシャルを入れるのが当たり前だった文脈にならい、ブランドスタート時からタグをT.Tにしていましたが、23AWよりブランド名もT.Tとなりました。
特記2) : ブランド発足をニューヨークにした理由髙橋大雅の将来的ビジョンの中には服だけでなく現代芸術があった為、アーティストやギャラリーが多数存在する現代美術の街に身を置く必然性を感じた為です。
T.T GION KYOTO
※総合芸術空間T.Tとは
総合芸術空間T.Tは、2021年12月4日オープン。日本の美を再解釈した衣服・建築・茶室・彫刻などの芸術作品からなり、髙橋自身の哲学や美学を伝える場となっています。
花見小路の裏通りに位置し、総面積は約50平方メートル。2フロア構成で、1階ではコレクションやアート作品を展示販売。2階には日本芸術の源流である茶の湯の文化を五感で体験いただくため、予約制の「立礼茶室 然美」を開設。
建物自体は大正初期の1904年頃に建てられた町屋に、髙橋自身が1本1本選んだ古材 ( 日本各地から出た神社の100~150年前の廃材 ) を持ち込んで作り直すなど総改築しています。
漆喰壁や三和土の床、組み木、布を使った光天井、庵治石の石畳など、失われつつある日本の職人の技を詰め込んだ空間となっています。さらに屋根を支える大黒柱を移動させるなど、髙橋大雅は一切の妥協なく日本の文化や美を追求し、自身の思い描く「総合芸術空間」 を作り上げました。


" 無限門 " 玄武岩 86.5 x 126 x 85.5 cm

" 無限円 " 玄武岩 78 x 104 x 76.5 cm


" 無限塔 " 玄武岩 [左]21.3 x 21.3 x 200 cm , [中央]17.4 x 17.4 x 200 cm , [右]21.3 x 21.3 x 200 cm
1階入り口には、髙橋大雅がイサム・ノグチ日本財団理事長で石彫家の故・和泉正敏と共に玄武岩で制作した彫刻作品「無限門」を展示。茶室に入る前に心身を清めるため、庭先に備えた石や岩などをくりぬいた手水鉢「つくばい」をイメージしています。
入口左手奥には、タイガタカハシのコレクションが並ぶブティックを開設。また同スペースには、目に見えない時間の概念を考古学の観点から彫刻によって視覚化した作品「無限円」を配置。
ブティックスペース奥には、枯山水をイメージした庭園を設置。枯山水と同じように、中と外の境界を曖昧にするために床を外まで延長した設計にしています。庭園横には、茶室をイメージしたフィッティングルームが設けられています。
1階最深部には、壁一面が白で塗られたギャラリースペースを開設。オープン時には終わりがないものを表現したという髙橋による彫刻作品「無限塔」を展示。




石の階段を上がった先にある2階フロアでは、「茶の湯の世界」を髙橋の総合芸術の一部として表現した予約制の茶室「然美 ( さび ) 」を展開。
経年変化と経年美化が然美の由来であり、時間が経つ事で良さが出る空間にしていきたいという髙橋の想いが込められています。
床、壁、器、椅子などはすべて髙橋自身の美意識が詰まった、趣向を凝らしたもので構成しています。
壁は京都唐紙工房「かみ添」が一枚一枚筆で染めた和紙を貼り、椅子は髙橋とジョージ・ナカシマの家具を長年制作してきた「桜制作所」が共同制作。
床は異なる細さの木を並べる乱張りという手法を用いる事で表情を出し、器は福村龍太氏を中心に髙橋自身が惚れ込んだ作家が同店のために制作したというこだわりようです。
以下、髙橋大雅のインタビューより。 「ここではセレクトショップのようなことをするつもりはないですし、他のブランドを扱うとか、古着を売るつもりもありません。唯一、自分で集めた古美術品を置くことはあるかもしれません。自分のフィルターが通ったものしか置きたくないんです。服のデザインに関しても自分がゼロから生み出すことに興味はなく、いままで数千着収集した70年から100年以上前の衣服を考古学の観点で研究し、そこに自分自身の解釈を加えてコレクションを発表しています。そんな中で衣服は記憶を辿る装置だと結論づけました。社会情勢によって人々の装いは激しく左右されますが、衣服がタイムカプセルのように時間に耐えて生き残ることで、過去の記憶を追体験し、失われつつある文化や伝統、その時代に生きた人々の記憶までをも閉じ込めることができると考えています」。
T.T - Woven Denim on old power loom In Okayama
T.T - Yuzen Dyeing in Kyoto
■ブランド概要
T.Tはニューヨークと京都に拠点を置くユニセックスブランドです。ブランドコンセプトは「過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」。デザイナー髙橋大雅自身が十代から蒐集した衣服は数千着以上であり、そのほとんどが大量生産以前の1920〜50年代のアメリカンヴィンテージです。ものづくりの本当の価値は、歴史の中にすでに存在しているのではないか、そんな思いを抱き、100年以上時間をサバイブした衣服の布地や縫製、ディテールなどを考古学の観点から研究し、新たな再解釈を加えて現代に蘇らせています。衣服を化石やタイムカプセルに見立て、失われつつある、織り、染め、縫製など日本古来の伝統技術や天然素材を使い、100年後の未来にまで残る「時代を超越した衣服作り」を目指しています。T.Tのものづくりにも生かされている日本が誇る職人の技。1000年以上続く自然染色の手業や現存する数少ない旧式力織機などを用い、その技を受け継ぐ職人たちとの対話を重ねて、ものづくりを追求しています。
■ヴィンテージ復刻ブランドとの決定的違い
「100年前の服が自分の手元にあるのは、その服が100年間生き残ったという証拠です。そして、この服がどうやってつくられているかを理解すれば、自分がつくる服も100年後に残るのではないだろうか。時間をサバイブするような服をつくりたいのです」。と語っているように、" 時間軸を意識したデザインがしたい " という、コンセプチュアルな考え方が他にはない思想です。
こういった考えに至るきっかけとして、海外ではファッションが芸術のカテゴリで見られているという事実を知ったことでした。「着用するもの」という域を超えて、服の成り立ちや歴史、社会との連動性といった視点など、芸術という文脈で捉えられている点に対し、最初のコンセプトをどうつくるかという部分の重要性を感じたようです。
長い海外生活の中で、自然と日本の感性、日本人としてのアイデンティティー ( これらの良い点 ) に改めて気付かされた髙橋大雅。
自身が好きだった100年以上の時を経ても尚現存し、時間を経過した故の美しさのあるヴィンテージウエアが、自身の中で日本の美意識の一つ「侘び寂び」とリンクしていきます。
さらに単なるヴィンテージウエアの再現では現代の日常にはそぐわない点もあります。昔はこのディテールが時代的に重宝されたけれども、現代生活では必要性が少ない、不要。といった風に。髙橋大雅は物の本質的な部分は残しつつ、自分が着たい、皆がデイリーに着る事の出来る服を製作しています。コンセプトとプロダクト、両方の視点を兼ね備えたものづくりです。
T.Tのプロダクトは、100年以上前の先人たちの衣服製作に対しての苦悩やひらめき、根拠。そこに髙橋大雅のエッセンスと日本の伝統技術を加えて衣服に閉じ込めています。現代と未来、同一時間軸に存在する二つの概念に向けてのデザインです。